しーたかの日本酒アーカイブ

日本酒の魅力について、もっと語りたくなったからブログを始めたんだ

岩手県『菊の司 Innocent 60』風景が変わっても、酒は嘘をつかない?新生・菊の司との再会。

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こんにちは、しーたか(@s_sakearchive)です。

今回は岩手県・菊の司酒造の『Kikunotsukasa Innocent 60』を取り上げます。f:id:sakearchive:20260324181547j:image岩手県といえば、私は盛岡という町にご縁があり、年に1〜2回は足を運んでいます。

行くたびに思うのですが、本当にいい町なんですよね。古い建物が自然に残っていて、町全体に落ち着いた空気が流れている。あの空気を吸いながら歩いているだけで、心がスッと洗われるような気がする。

かつての菊の司酒造は、そんな盛岡の中心地からほど近い、紺屋町という歴史あるエリアにありました。あたりを歩いていると、近隣に住む人々が自分たちの町に酒蔵があることを誇りに思い、風景の一部としてとても大切にしているのが肌で感じられたものです。
あの風景のなかで、地域に愛されながら造られている酒だと思うと、味わいにもぐっと奥行きが出る。私は、菊の司のお酒だけでなく、そうした蔵のある風景や町の空気ごと好きだったのだなぁと、今にして思います。

しかし、2021年に状況は一変。菊の司酒造はアミューズメントや不動産業を手がける企業へ事業譲渡され、老朽化に伴い蔵も盛岡から雫石へと移転しました。

これ自体は蔵の存続のための決断だったのでしょうが、旧蔵の跡地に14階建のマンションが建つという計画には、多くの地元ファンが難色を示しました。

東京都内の事例で例えるなら、谷根千エリアの夕やけだんだんの先にマンションが建設され、あの美しい夕日が遮られてしまったような……そんなやるせなさに近いかもしれません。

日本酒を買うことは、その蔵を応援し、投票すること

そう考えている私は、失われていく景観への寂しさや新体制への複雑な思いから、新しい菊の司とどう向き合えばいいかわからず、気づけば2年ほどこの銘柄から遠ざかっていました。

山内聖子さんの著書が繋いでくれた縁

そんなモヤモヤを抱えていた2024年。山内聖子さんの著書『日本酒呑んで旅ゆけば』を手に取りました。

盛岡出身の山内さんも、当初はこの移転に思うところがあったそうです。しかし、取材を通じて新生・菊の司の真摯な取り組みに触れ、考えを改めるに至ったと綴られていました。

私もこの本を読んで心境が変わったんですよね。いつまでも意固地になっているのもなんか違うよなと。

そんな経緯で、手に取ったのが今回ご紹介する『Innocent 60』というわけです。

『菊の司 Innocent 60』クリアでジューシー、それでいて「引き算の美学」が光る味わい。

『菊の司 Innocent 60』の裏ラベルはこちら。f:id:sakearchive:20260324181622j:image

スペック表も貼っておきます。

原材料 米(国産)、米麹(国産米)
精米歩合 60%
アルコール分 14度

『innocent』シリーズは、精米歩合違いで40(純米大吟醸)、50(純米吟醸)、60(純米酒)とラインナップされており、この「60」はシリーズのエントリーモデルという位置づけ。

いずれも無濾過生原酒で、アルコール度数は14度と若干の低アルコール寄りの設計です。

グラスに注いで顔を近づけると、リンゴを思わせるフルーティーな香り。カプロン酸エチル由来の華やかさがほんのり乗ってきます。派手すぎず、でも確実に果実感がある。これは飲みやすいお酒だとはっきり直感させる、非常に心地よいアロマです。

口に含むと、おぉ凄まじいクリアさ!低アル原酒らしい軽快さがあって、口当たりがとにかく軽い。それでいてジューシー。甘酸のバランスが綺麗に整っていて、変に構えなくてもストレートに美味い!と思える味わいです。

そして何より特筆すべきは、雑味のなさ。これは本当にすごい。無濾過生原酒で、どうやったらこの透明感を出せるのでしょうか。余計なものが一切ないクリーンな空気感に、米の旨みだけがちゃんと残っている。まさに引き算の美学を見せつけられた気分です。

温度帯は冷酒一択で、このクリアなジューシーさを存分に味わうのが正解でしょう。

食中酒としても極めて優秀で、お酒の透明感を活かせるシンプルな食事が似合います。白身魚のカルパッチョはもちろん、鶏のクリーム煮や焼き野菜のマリネなんかと合わせたら、間違いなく幸せな食卓になるでしょう。

おわりに

そんなわけで今回いただいた『菊の司 Innocent 60』、2年間遠ざかっていたお酒をもう一度飲んでみようと思えたのは、山内聖子さんの著書のおかげです。

そして実際に飲んでみて、グラスの中の液体には、確かに新しい菊の司の意志が宿っていると感じました。

リンゴ系の果実香、クリアで軽快な口当たり、雑味のないジューシーな味わい。

どこを取っても破綻がないのに、無難に小さくまとまっているわけでもない。わかりやすく美味いというのは、実は造り手にとって一番難しいことなんじゃないか。飲みながらそんな風に思いました。

蔵の移転や景観の変化について、今でもすべてを割り切れたわけではありません。でも、グラスの中の酒は決して嘘をつかない。酒は雄弁です。特に日本酒は。

少なくとも、真剣に、そして圧倒的な技術で酒を造っている人たちがいる。その事実は、この一杯から十二分に伝わってきました。

エントリーモデルの『60』でこれほどの完成度なら、次のシーズンには『40』や『50』も飲んでみたいものですね。

そう素直に思えたこと自体が、私の中での大きな変化です。新生『菊の司』、これから再び追いかけてみようと思います。

それではまた。

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